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広島地方裁判所 昭和54年(ワ)758号 判決

主文

被告らは原告に対し連帯して金七六七万九二四九円及び内金六九七万九二四九円に対する昭和五二年八月五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し連帯して金一一四四万八二四三円及び内金一〇七四万八二四三円に対する昭和五二年八月五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告は次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一) 発生時 昭和五二年八月五日午後〇時二〇分ころ

(二) 発生地 広島市南区上東雲町六番七号久保井富雄方先道路上

(三) 加害車両 六六広島い二三五九軽四輪貨物車 被告大高京運転

(四) 被害車両・被害者 広島市ぬ七八二五自動二輪車(ホンダカブ)原告運転

(五) 被害の状況 原告は、頭部挫滅創兼脳挫傷兼全身打撲傷の傷害を受け、事故日から同年一〇月一〇日まで六七日間入院し、同月一一日から翌昭和五三年六月三〇日まで通院した(実質通院日数一一七日)。

(六) 事故の具体的内容

加害者が信号を確認しないまま交差点内に進入した。被害者は信号待ちをしており、青信号に従つて走行をはじめた直後に衝突した。

2  責任原因

(一) 被告株式会社伊藤商会は加害車を所有し自己のため運行の用に供していたのであるから、自賠法三条による責任がある。

(二) 被告大高京はスピード違反、信号無視の過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条の責任がある。

3  損害

(一) 入院雑費 金四万〇二〇〇円(六〇〇円×六七)

(二) 付添看護費 金七万五〇〇〇円(二五〇〇円×三〇)

(三) 休業損害 金二五一万一二九〇円

当時原告は一人で非鉄金属業を営んでいたために事故にあうと同時に全面的に休業やむなく、賃借していたスクラツプ置場三〇〇坪も使用できなくなつて地主に返還して事業を一時閉鎖した。事故当時は月三〇万円を下らない収入をあげていた。昭和五三年三月ころから徐々に事業を再開したが頑固な神経症状に悩まされ、従前どおりの労働はとうていできないうえに顧客と取引が半年にわたつて中断したことから事業収入は半減し、次のとおり損害を受けた。

(1) 昭和五二年八月五日から昭和五三年二月末まで 二〇六万一二九〇円(三〇万円×(六+三一分の二七))

(2) 昭和五三年三月から同年六月まで 四五万円(一五万円×三)

(四) 入院・通院の慰謝料 金九〇万円

(五) 後遺障害による逸失利益 五四〇万円(三〇万円×一二×〇・三(九級一〇号)×五)

(六) 後遺障害による慰謝料 金三〇〇万円

治療もさしたる効果のないまま現在に至り、現在もなお治療を続けているものの後頭部傷害部分に腫張をみ、頭痛、うつとおしい感じが頑固に継続している。頸部・肩胛部・両上肢・背部の緊迫感、しびれが消失せず、腕を上方に挙げにくく、背部に異和感がある。疲労感が絶えず、物忘れひどく、眩暉を生じて高所に上ることはできない。

(七) 損害のてん補 金一四七万円

(八) 弁護士費用 金七〇万円

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1中、(一)ないし(四)は認める、(五)は不知、(六)は否認する。

2  同2中、(一)の責任原因事実は認める、(二)は否認する。

3  同3中、(一)ないし(六)は争う、(七)は認める、(八)は不知。

三  抗弁

1  被告大高は前記軽四輪貨物自動車を運転し、時速約二〇キロメートルで、市道を南から北へ向けて進行し、信号機の設置されている本件交差点にさしかかり、対面する信号が青であることを確認して交差点に進入、北進通過しようとしたところ、原告が原動機付自転車に乗つて東から、赤の信号を無視して本件交差点に向つて直進してくるのを右前方約八メートルの地点に認め、急停車措置をとつたが、原告がそのまま直進、交差点に進入して被告車の右後部に衝突した。

本件事故は原告の信号無視に起因し、被告大高には過失がないうえ、被告車両には構造上、機能上の欠陥がないから、免責を主張する。

仮に被告大高にも何らかの過失があるとすれば、原告の過失が重大であるから相当大幅な過失相殺がなされるべきである。

2  治療費総額は一一四万六四七〇円でそのうちてん補した金額は八五万四七一七円であり、従つててん補額総合計は休業補償金一四七万円を加えた金二三二万四七一七円である。

四  抗弁に対する認否

抗弁1は否認し、同2は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告主張の日時場所において原告運転の自動二輪車と被告大高運転の軽四輪貨物車との間に事故が発生したこと、被告伊藤商会が右軽四輪貨物車を所有し自己のため運行の用に供していたことは、当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一ないし三、第一三号証の一ないし六、第一四、第一五号証、原告本人、被告大高京本人(一部)各尋問の結果によれば、次のとおりの事実が認められ、被告大高京本人尋問の結果中この認定に反する部分は措信できず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

本件事故現場は、海田方面から西方的場方面に向う幅員七・二メートルの道路と段原方面から北方大州方面に向う幅員六・八メートルの道路との交差点である。交差点の路面はアスフアルト舗装され平たんである。海田方面からの道路の交通規制は最高速度四〇キロメートルであり、交差点手前左側に信号機が設置してあり、進行方向左方の見とおしは不良であつた。段原方面からの道路の交通規制は最高速度二〇キロメートルであり、交差点前方左側に信号機が設置してあり、進行方向右方及び左方の見とおしは不良であつた。

原告は自動二輪車を運転して海田方面から本件交差点に差しかかり、信号待ちのため停車し、青信号で発進し、七・六メートル進行した地点で被告運転車と衝突した。

被告大高は軽四輪貨物車を運転して段原方面から本件交差点に向い、その手前約二一・五メートルの地点で交差点の状況を確認したが左右に往来する車両等がなかつたため、約四〇キロメートルの速度で進行し、赤信号を認識することなくそのまま本件交差点に進入し、右方三メートルの地点にようやく原告運転車を認めてブレーキをかけたが及ばず衝突した。

その結果、原告運転車には左前フオーク、左後方向指示器にさつか損が、被告大高運転車には右後ボデーさつか損がそれぞれ生じ、原告は傷害を負つた。

以上のとおり、原告進行方向が青信号であり、被告大高進行方向が赤信号であつたものと認められ、この点に関する被告大高京本人尋問の結果は措信できない。前記甲第二号証によれば、被告大高は事故直後の実況見分において、交差点手前約二一・五メートルの地点で前方を確認した旨指示説明しているにもかかわらず、信号については何ら言及しておらず、交差点に深く進入した原告運転車をようやく認めてブレーキをかけたが及ばなかつたというのであるから、前記甲第四号証の二と対比してみても、原告進行方向が青信号であり、被告大高進行方向が赤信号であつたとみる外ない。

前記甲第一四号証によれば被告大高進行の道路の最高速度規制が二〇キロメートルであつたことは明らかで、甲第二、第四号証の各一中この点に関する部分は誤まりである。

従つて、本件事故はもつぱら被告大高の信号無視、速度違反の過失に因つて発生したものというべきであり、被告らの免責及び過失相殺の主張はいずれも理由がない。

三  成立に争いのない甲第五ないし第七号証、第九号証、乙第一号証、証人多田春江の証言(一部)、原告本人尋問の結果(一部)によれば、次のとおりの事実が認められる。

原告は本件事故前構造物やクレーンの古物を解体して金属屑を販売する仕事に従事しており、作業に当つては高所に上つたり、重い物を持ち上げたりすることが必要であつた。原告は右の仕事により少くとも月二〇万円を下らない実収入を得ていた(証人多田春江、原告本人はいずれも原告が月三〇万円の実収入を得ていた旨供述するけれども、前記乙第一号証に照し右各供述を採用することはできず、他方、乙第一号証も、右各供述に照すと右認定を左右するに足りるものとは考えられない。)。

原告は本件事故により頭部挫滅創兼脳挫傷兼全身打撲傷の傷害を受け、事故日から昭和五二年一〇月一〇日まで六〇日間山田外科病院に入院し、その間三〇日は妻が付添看護し、退院後も同五三年六月三〇日まで通院した(実通院一一七日)。

原告は右入院期間も含めて昭和五三年三月まで七か月間休業した。

原告は前記傷害により両上肢痛、後頭部痛の自覚症状を後遺し、アレンテスト及び神経伸展テストで両上肢ともに陽性、かつ両前斜角筋部の圧痛著明であつて、両上肢痛は頑固である。また、前記自覚症状のため高い場所での仕事が不安で出来ない状態にある。

以上のとおり認められ、原告の本件事故による損害は次のとおりとなる。

1  治療費 金一一四万六四七〇円(当事者間に争いがない)

2  入院雑費 金四万〇二〇〇円(六〇〇円×六七)

3  付添費 金七万五〇〇〇円(二五〇〇円×三〇)

4  休業損害 金一四〇万円(二〇万円×七)

5  逸失利益 金三一四万二二九六円

原告は前記のとおりの作業に従事していたものであるところ、本件事故により、神経系統の機能に障害を残し、重い物を持ち上げ、或いは高所に上ることのできない症状が後遺し、服することのできる労務が相当程度に制限されたのであるから、昭和五三年三月から五年間にわたり三〇パーセント程度労働能力を喪失したものとみるべきである。従つて、二〇万円×〇・三×四・三六四三(ホフマン係数)=三一四万二二九六円が逸失利益である。

6  慰謝料 金三五〇万円

前記傷害、入通院状況、後遺症の程度からすると、慰謝料は三五〇万円が相当である。

以上の合計九三〇万三九六六円が原告の本件事故による総損害額であるが、二三二万四七一七円のてん補がされていることは争いがないのでこれを控除すると、残額は六九七万九二四九円となる。

7  弁護士費用 金七〇万円

本件訴訟の経緯、認容額等に照し弁護士費用として七〇万円を相当と認める。

四  よつて、原告の本訴請求は、被告らに対し連帯して損害金七六七万九二四九円及び内金六九七万九二四九円に対する事故日の昭和五二年八月五日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は棄却し、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大前和俊)

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